―ユージェニクス―
「咲眞はその……特に何も思ってないかもしれないけどさ」

「? 何が」

ぱっとしない拜早の言葉に、咲眞は相手の顔を見た。


「あれだよ」

「分かんないよ」







「……茉梨亜、ほんとに妊娠してんのかな」





言いにくそうに、そして少し寂しそうに拜早は言った。





が。


「……」

「ほら、黒川とのさ……ってどうした咲眞」

対する咲眞は虚を突かれた様に目を丸くする。


「忘れてた……」


「あ?」


「わ、すっかり忘れてた!あったねーそんな話!!」

そういや今日小テストだったねーみたいなノリで返してくる咲眞。

「は、はぁ!?忘れるかフツー!」

「や、なんかゴタゴタしてたし僕も結構茉梨亜にはキレてたし、あちゃーそっかそっか」

茉梨亜にキレてたというのは爆弾のスイッチ押しちゃうぞー発言のアレだろうが、それにしたってなんて悠長な。


「あぁでも……」

咲眞は口元に手を当てて少し思案した。


「……おまえが黒川から直に聞いたハナシだろーが」

「そうなんだよね。だけど……」

咲眞は何の気無しに下界を見やる。


「……茉梨亜の態度、覚えてる?」


「態度…?」

拜早は訝しく眉を顰めた。


「動揺……は、してたと思うけど」

「うん。でも確か『違う』って言ってたと思うんだよねー…」

言いながらもそんなに自信はないのか、咲眞は軽く項垂れる。


「違うって本人が言うならそうなんだろうけど」


「……けどもしあいつ妊娠してたら?」

「でもさ、僕らが気に病んでどうにかなるものじゃ」

「気に病んだら駄目なのか?」


拜早は咲眞を見ていた。



「……拜早」


「い、いや…別に茉梨亜が妊娠してたって仕方ないんだ。でもそれならこれから大変だろ?あいつは身体、大丈夫なのかとか……」



風は髪と服をなぜていく。

茉梨亜を受け入れる覚悟なんて必要ない。

ただ在るがままを受け止めるだけ。


それでも茉梨亜自身が辛くなってしまうなら、自分にとってそれが辛い、と思うのだ。

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