―ユージェニクス―
「拜早のクセ、だね」
「え…?」
「誰かを思う代わりに自分の気持ちを捨てる」
「……何言ってんだ?」
咲眞は身を逸らし、日が傾きかけた空を見上げる。
「助ける代わりに自分を犠牲にした」
――それは、いつの事を言っているのだろうか。
そして、視線を落とす。
「その足」
鋭い瞳が拜早を貫いた。
「調子はどう?」
「は?調子って…別に……」
何故だろう。
微かに畏怖を感じた。
「……まだ包帯は変えない方がいいね」
拜早の細いジーンズを一瞥し、今のやり取りを無かった事にする勢いで立ち上がる。
「兎に角、こんな優しい拜早がいるなら茉梨亜も安心だね、例え黒川との子どもが出来ていても……ね」
苦笑。
そんな咲眞の意図が全く読めず、拜早は怪訝な顔をするしかなかった。
「おまえ、何が言いたいんだよ」
「別に……拜早はほんと優しいなぁって話。ねぇ茉梨亜?」
「茉梨…!?」
思わず振り返る。
自分達の背後は崩れた城の壁。
隔てて、そこからおずおずと現れたのは。
「……」
懐かしいと思える程のあの普段の姿で
茉梨亜が遠慮がちに立っていた。