―ユージェニクス―




「ひ…久しぶり」


小さくそう。

茉梨亜の声で。



「久しぶり」

対する咲眞は流石、案外落ち着いている。


「……」

拜早はただ彼女を凝視した。



黒川邸でのそれと違う、彼女の好むカジュアルな服装にツインテール。

どこか疲労感がある気がするが、それでも彼女に表情はあった。


申し訳なさそうに、眉を顰めている。



「あの……大丈夫だから」


そしてぽつりと。


「だ…いじょうぶ?」

拜早が復唱する。



「あたし子ども出来てないよ」



風は、止んでいた。




「黒川が何言ったか知らないけど、違うから……絶対いないから」

半ば睨んでいるかの様な強い目で茉梨亜はそう、断言する。



「……なんで分かるんだよ」




「もー、拜早ヤボなんだから、女の子の事情だよねぇ?」

にこーっと笑って咲眞が言った。
こいつはなんだか色々分かっているらしいが、拜早はさっぱり分からない。

「はぁ?何だよ女の子の事情って」
「あーあーいいの拜早は!!咲眞も黙って!!」

バタバタと駆け寄って、茉梨亜はこれ以上言わせまいと遮る。


「大丈夫ったら大丈夫なの!それに警察の所でもきちんと検査もしたし……問題ないの!あたし健康体だった!」

「ふぅん、よく病気にかからなかったねぇ」

『!!』

また笑顔の咲眞は皮肉で言ってるのか。それとも純粋に言っているのか不明だ。なんか怖い。

「いや、まっまぁ……良かったな……無事で」

「うっうん……」


黒川はきちんと考えて茉梨亜と……?
でもあの時だって何か予防した様な行動は特に……
「うぁぁ……思い出した止めよう」

何を考えていたのか拜早が急に項垂れ凹む。

「だっ大丈夫拜早」

「屋敷での事思い出したの?吐くなら下界に向かって……」

「んなとこに吐くかッ!」

「あははごめんごめん。やばいなテンション上がってる」

クククと咲眞は困った様に笑った。

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