―ユージェニクス―
暗闇を照らす月明かりはとても綺麗で
心が和んだ。
「そういえば……研究所でのお礼言ってなかったね」
壊れた城の壁からは満月に近いクリーム色の月が覗いている。
座っていても窓変わりになる壁枠に肘を付き、咲眞は暫く空を見上げていたのだが……
ふと同じ部屋にいる相方を見やった。
「あーでもあの場合お礼言うべきなのかな……“逃がしてくれてありがと”? …微妙だな」
拜早は月明かりの下、規則正しい呼吸で眠っている。
「ホント、情けない」
誰も聞いていない事よろしく、咲眞は悪態紛いに呻いた。
それは、過去の自分に対してで。
「正気だったら絶対、拜早を一人になんかしないのに」
今なら必ず上手くやる。
拜早を怪物にはさせなかった。
「…ま、過ぎた事に文句言ったって惨めなだけなんだけど」
無理矢理苦笑して、もう一度空に目を向ける。
白い月は相方の不自然な色に似ていて……
「……うん」
もう、情けない事なんて無いように。
大切だと決めたものをもう手放さないように。
咲眞はその思いを
月光と共に静かに胸に抱いた。