―ユージェニクス―
「狂ってるんだアイツは!!」
「落ち着いて下さい」
「あの眼楽しんでる!殴るの楽しんでんだよ!」
「じっとしていないと包帯巻けませんよ!」
「俺だってさぁ色々やってきたぜ!でもあんな奴に会ったのは初めてだ…っ」
被害者は唇を噛み締めて言った。
「抗争とか好きな不良のそんな目じゃない、あの青っぽい茶色の……なんであんな色なんだよ!!」
「きゅ、急所は全て外れていました。安静にしていればすぐ回復しますよ…」
医師はそう言って患者を慰めたが、現状は思わしくない。
(急所が外されてこの怪我……本物のタコ殴りだな)
気絶もさせて貰えず、ただ痛みだけをずっと感じる…そんなやり方。
おかしい。
確かにおかしい。
噂の通り、やはりこの犯人は精神異常者なのだろうか。
――彼らは知らない。
ソレが研究所の犬だという事を。
この時研究所は、内部でも最小限の情報流出に留めていた。
故に施設から派遣されている診療所の医師達も、異常殺人未遂者の正体は知らなかったのだ。
知っていたのは白の怪物に関わりのある者だけ……
――衝動。
人を殴りたいというもの。
切り付けたいという気持ち。
けど、手は奴らの丈夫なところしか狙わない。
なんでだ。
殺したいのに殺せない。
気分が悪い。
制限されてるみたいだ。
「……くそ」
……いや。
「………?」
なんでこんな気持ちになる?
人なんか殺したいわけない。
殴りたいなんて、おかしいじゃないか。
どうしたんだ、俺。