―ユージェニクス―
「僕は間宮という」
「はぁ」
正当に挨拶されたが、やはり不自然な髪型が気になる。
代わりにスーツはきちんと着ており、饒舌に反して気真面目な性格が現れていた。
「君の担当は通称データ収集班の、管原弾というチャラい男だ」
「へぇ……」
あの人か、と率直に拜早は思った。
それ以上もそれ以下もない。
頭が考えようとする事を拒んでいた。
…奥深くに居る自分自身は実はこの状況に動揺しているのかもしれないが、今関根拜早は白の怪物として、特に何も興味が無かった。
「……で?」
「で?……だと?なんだなんだ!管原の奴が君になんの説明もしていないと言うから、わざわざ僕が出向いてやったのに!」
プンプンという擬音語でも飛び出しそうな顔をして、男は憤慨した。
「説明?あんたがしてくれるんだ」
「そうだ!有り難く思いたまえ。君の脳みそはどのみち磨耗していく一方だが、一度くらい立場は知っておきたいだろう!」
拜早は微かに目を細める。
難しい言葉を言われてもよく解らない。
だが聞かない理由も無いと思った。
「……クク」
そして気付けば喉で笑っていた。
「む、何が可笑しい」
「……じゃあ聞くけど、俺はベラベラ喋りたくってるあんたを刺したいと思うのに刺せない……これはどういう事だ?」
ギチリと指先に力を入れると、瞬間どこに装備していたかシャープナーナイフが指間に現れる。
「なんでかな、これ以上手が動かない」
「ヒ…!」
間宮は気圧されたのか挙動不審に後ずさった。
「フ……フンッ!基本的に被験者の洗脳は研究員に対しては発動しないのだ!」
間宮の声はかなり上擦っている。
「そっそれに君がそこから手を動かせないのは自身が僕に攻撃する事を拒んでいるだけさ!」
「……全然意味が分からない」
拜早は面白くなさそうにナイフをしまい、真面目な顔に戻った。
「(むぅ……彼はどうやら発動してしまうと狂気的になるらしいな。それであの怪物騒ぎ……合点がいく)」
間宮は引けた腰のままそんな事を分析していた。