―ユージェニクス―
丸いガラステーブルに銀飾の椅子。
開けた明るい空間に緑の観葉植物……
一般としては気持ちのいいラウンジだ。
「さぁ遠慮無く飲みたまえ」
だが拜早にとってはあまり居心地のいい空間では無かった。
白衣を来た研究員が闊歩し、スーツを来た事務員が堪えず仕事の話をしている。
そんな研究所内のカフェテリアで、何故所員の男と顔を突き合わせてコーヒーを飲まねばならないのか。
だいたい自分はコーヒーだが男は見た目もステキなパフェだった。
「脳内のブドウ糖は糖分を定期的に捕る事で更に活性化するのだよ」
などと微妙に本当そうな事を口走って上品に食しだす。
「あの……俺こんなとこ入っていいんすか?」
「気にするな。ふむ、君は発動時と素のギャップが気持ち悪いな」
まったくこの男は遠慮のない事を言ってくれる。
「さて自己紹介だが、僕はデータ処理…正式には記録照合処理班の班長をしている。ちなみに君の担当の管原君は記録収集分析班だ」
パフェを食べながらこの滑舌は凄い。
「まず君はプロジェクトのナンバーという事を知ってほしい。実際は被験者扱いだが、事実上研究の為の貢献者だ」
また小難しい事を間宮は言う。
だが拜早にとって被験だろうが貢献だろうが、今はどうでもよかった。
その堕落した思考回路を間宮は解っていたのかもしれない。
思えばプロジェクトの内容についても被験者イコール協力の意思が必要という説明も、この男はしなかった。
間宮は口数は多いし表現も無駄に目立つ人物だったが、その話の内容だけを振り返れば……言わなければならない説明だけを義務の様にしていた気がする。
「君はナンバーの中でも特別な役割をしている。民間人のDNA採取をして貰っているわけだ」
「……髪を採るあれか。なんで俺はあんな事をやってるのか分からない」
「だろうな」
間宮はパフェを食べていた銀の長いスプーンを拜早へ向ける。
「君に掛けられた命令は、民間人にある程度傷を与える事。それから毛髪の採取、だ」