―ユージェニクス―
「命令…って、さっき言ってた洗脳の事か?」

眉を顰める。


「ああ。洗脳担当者が順序を間違えたがな。こうなってはもうこのまま行くしかないが」

「なんで“ある程度傷を与える”んだ?だから俺は人を殺したくなるのか?」

言っていて自分で嫌悪した。
殺人衝動なんて、持っていたくない。

「……先に言っておくが君は殺人はしないよ。洗脳というのは今でも難易度の高い技術でね。加減が難しいんだ」

間宮はパフェの中で層になっているシリアルをグサグサと潰した。


「どういう事だ?」

拜早の口調が怖くなったので、間宮は微妙に縮こまる。

「こ、今回のケースはだな……まず、“君は人を殺したくなる”という催眠を掛けるんだ」

うん、と拜早は頷いた。

「その後、“でもそれはいけない事だから殺したいけど殺さない様に急所を外す”という催眠を上から掛け直す。これで洗脳の出来上がり、君は発動状態になるとこの通りに動くわけだ」

間宮は砕かれたシリアルも口に運ぶ。

「ちなみに命令の対象は保護地区の民間人で、それ以外は省かれる。君がさっき僕を攻撃出来なかったのは、洗脳命令の範疇外にも関わらず脳が混同し“発動”したのだが、結局命令外の為セーブされた…というわけだ。だから君の奥の意思で衝動を押さえる事が出来、発動中の君は手を動かせなかったのだよ」

「……」


拜早は真顔だったが頭の中は疑問符だらけだった。
まったくもってややこしい。一回言われただけじゃ殆ど理解出来ない。


……いや、出来ないものは仕方ない。

……この時何故拜早は間宮の説明になんの疑問も投げなかったのか。

こんなおかしな被験者への説明を鵜呑みにする程、自分は考える力を無くしていたのか。


『――あ』


現実の拜早の頭にある仮説が浮上した。

しかしそれでも夢は続く。

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