―ユージェニクス―

「以上が“君の行っている事”と“洗脳の内容”だ。理解したかな?」

こんな事情、細部まで理解出来るわけがない。

自分が置かれている立場だけを要約すれば、研究所に良い様に使われている手駒みたいなもの…という事だが。

「……まぁ、何と無くは」

「なんだ歯切れが悪いな!理解して貰わないと僕が説明した意味が無いじゃないか!」

そんな事言われても仕方がない。
現に間宮は言った。
今朝の事なども覚えていないだろうと。

事実そうなのだから、たった今言われたややこしい説明も、半分も理解しないまま忘れるに違いない。


「なら……」

「?」


拜早が口に衝いたのは独り言だった。


「忘れる事が出来るかもしれない」


あの悪夢を。


あれを忘れる事が出来るなら、研究所の駒になっていてもいいかもしれない。



「ああ、もしそれでも忘れられなかったら……」

アレは鮮烈だったから、すぐには頭から消えそうもない。

だとしたら



「あぁ、あいつを消せばいいのか」

記憶じゃなくその対象を。


無かった事に  してしまえば。






「おい、関根拜早……」

思わず間宮は呼び止めるが、白い少年はふらふらと銀飾の椅子から立ち上がる。


「セーブされて殺せないなら、自分でリミッター外せばいいよな?」

「…は!?」

「俺が殺したいと本当に思えばきっと殺せる。それは洗脳なんかとは関係ない、俺自身の気持ちだから」


そう、噛み締める様に……拜早は嗤った。




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