―ユージェニクス―
―3―
コンクリートが剥き出しの建設途中で破棄された城。
普段は冷たいその空間だが、今は陽が上手く差し込んでいるのか明るく、暖かかった。
「あったま痛ぇ……」
ズキズキと容赦のない頭痛は、寝過ぎたそれと思わせる。
「しかもなんであんな小難しい話の夢を……俺の脳みそおかしくねぇか」
跳ねた白髪を撫で付けながら、拜早はけだるそうな足取りで灰色の階段を下りていた。
夢。
物事を忘れていく脳みそ……
そう間宮に言われていた。
『過去に何があったか知らないが……』
過去。
黒川の屋敷。
結局アレは忘れる事が出来なかったし、対象も殺せなかった。
……忘れる事が良いのか良くないのかは分からない。
ただ間宮からの説明もこう夢に出て来た事だし、もう記憶が消えていく、なんて事はないと思う。
それも、あの廃屋で……咲眞の顔を見る事が出来たから。
あの瞬間に靄の掛かった頭も堕落した思考回路も叩き起こされたのだ。
「もし俺があのまま研究所に居たら……」
拜早は未だ正気ではなかったかもしれない。
咲眞に会わなければ自分を取り戻す事も、黒川邸に乗り込む事も出来なかっただろう。
「感謝しないとなぁ、茉梨亜のカッコしてた咲眞に……」
噛み殺せなかったあくびをしながら拜早は階下に降り立った。
と。
「茉梨亜のカッコがなんて?」
目の前に居たらしい女の子は、呆然な顔で拜早を見ていた。
「まっ茉梨亜?」
「もしかして今日の格好おかしいっ?有り合わせ適当に選んだからかなぁ」
茉梨亜は自分自身をくるくると見て焦りだす。
アーミー柄のパーカーにデニムミニの組み合わせは別におかしくない。
「いや…俺のただの独り言だから」
拜早が苦笑すると茉梨亜は、そ?と言って止まる。