―ユージェニクス―
―4―
この職に就いたのは純粋に医者になりたかったから。
上手く行けば開業医にでもなるか、と思っていた。
大学院附属の研究室に残ったのは些細なきっかけだったし、提出した研究成果が観崎とかいう教授に認められたのも偶然だろう。
―必然なんてないわ―
あいつがそう口にした時から、自分は必然を信じていない。
―これが必然だったのなら、神様を恨まなくちゃならないもの―
クリスマスも縁日も楽しめないしね、なんてあいつは笑っていた。
「所員からもナンバーを出そうと思う」
観崎がそう決定したのは、この研究が行き詰まっていた時だった。
一般の被験者も集まらず、加えて最新型ウイルス抗体の予防接種義務……
まぁ言い訳はいいか。
ともかく色々と事があって、あいつは被験者に選ばれた。
その時も「研究の為なのだから」と笑っていた。
もし、あの時止めていれば……
あいつが被験者としてに身体を侵す事もなかったし、もっと会える時間を作れたのだが。
後悔、という気持ちではない。
ただ残念だ、と。
あいつは“仕事”を頑張っているんだから、せめて自分も仕事に生きよう。
そう割り切っていたのに。
「管原君、君の行動にどういった意味が有ったのか解りかねるのだが?」
観崎に呼び出された時、この男は普段よりも冷めた目でそう言ってきた。
「いやぁ、黒川邸に興味がありまして」
「それが答えになると思っているのかね」
と威圧を掛けてはいるが、この男はとうに解っている筈だ。
黒川邸で何を手に入れ、どういった推察を管原達が行ったのかも。
その上でこの呼び出しに違いない。
きっと、枷を嵌められる。
もう身勝手に動かない様、観崎は釘を打つだろう。
「管原君……これは提案なのだがね」
これでもう、俺は。