―ユージェニクス―
「え…っと……研究所の人?」
「そうだよ。君は新庄茉梨亜サン、かな」
突如現れた塔藤はゆっくり診療所へ入り、茉梨亜の名を言い当てる。
「え、ど、どうしてあたしの名前……」
「(うわ、なんかデジャヴ)」
奥から様子を見ていた咲眞が複雑な顔をした。
「……あいつら」
拜早の目線の先には、現れた塔藤とその傍ら。
同じジャンパーを着ている男が二人居る。
あのジャンパーには拜早も咲眞も見覚えがあった。
「君はちょっとした有名所だよ?黒川側近の女の子……ま、ここに居るって事はお勤めも終わったのか」
塔藤は勿論黒川邸突入事情を把握している。
今のお勤め発言は黒川邸での茉梨亜の事ではなく、建前上任意同行に至った留置所での事を指していた。
「……何か様?塔藤サン」
「うん。君にね」
そして奥に居た拜早を塔藤は見据える。
サイドにジャンパーの男達を従えた研究員の塔藤。
なんとなく、嫌な予感がした。
「拜早君、召集だ」
塔藤から穏やかさが消える。
「……え?」
「ナンバー443フェレッド、関根拜早……来なさい」
それはつい先日この診療所で見せた温和さの欠片も無く、まるで別人の様に。
塔藤はただ機械の如く言い放った。