―ユージェニクス―
「…拜早、どうしようか」
「……」
どうしようもないのでは。
……そんな言葉は言いたくなかった。
だが、どうすればいいかが分からない。
「……あの金髪が言ってた、拜早が重要ってどういう事なのかな。拜早の身体が重要って事?」
「……」
茉梨亜の疑問点に、咲眞はあからさまに眉を顰めた。
「……咲眞?」
見慣れない表情に茉梨亜は首を傾げる。
咲眞は何かに迷っている様な……覚悟を決めようとしている様な、厳しい顔をしていた。
そして。
「拜早の足だ。銃で撃たれた」
整然と言い切る。
「え……紀一にやられたヤツよね?それ関係あるの?拜早は問題無いって言ってたけど……」
発言の意図が分からず茉梨亜は目を丸くする。
「大有りだよ。おかしい」
咲眞の言葉は鋭かった。
「普通、銃で足撃たれて三日四日で歩けると思う?」
「え…?」
「拜早は両足やられてた。片方は弾道にえぐられて、片方は貫通だ」
あの出血量だって半端なものではなかった。
「そりゃ痛みは麻痺すると思うよ。けど、肉も神経も傷めて、もしかしたら骨も傷付いてるかもしれない。それで……」
それで歩けるのか。
「拜早はその日に歩けてた。撃たれた事忘れてるくらいに」
「……」
それは、人間として奇怪過ぎではないか。
「推測は、してた。でも……ね」
「そ、それって……じゃあ、拜早のあの足…」
あの包帯の下は、もう既に治っているのではないか?