―ユージェニクス―

「…拜早、どうしようか」

「……」



どうしようもないのでは。
……そんな言葉は言いたくなかった。

だが、どうすればいいかが分からない。


「……あの金髪が言ってた、拜早が重要ってどういう事なのかな。拜早の身体が重要って事?」

「……」

茉梨亜の疑問点に、咲眞はあからさまに眉を顰めた。


「……咲眞?」

見慣れない表情に茉梨亜は首を傾げる。


咲眞は何かに迷っている様な……覚悟を決めようとしている様な、厳しい顔をしていた。



そして。


「拜早の足だ。銃で撃たれた」

整然と言い切る。



「え……紀一にやられたヤツよね?それ関係あるの?拜早は問題無いって言ってたけど……」

発言の意図が分からず茉梨亜は目を丸くする。


「大有りだよ。おかしい」

咲眞の言葉は鋭かった。



「普通、銃で足撃たれて三日四日で歩けると思う?」

「え…?」

「拜早は両足やられてた。片方は弾道にえぐられて、片方は貫通だ」

あの出血量だって半端なものではなかった。


「そりゃ痛みは麻痺すると思うよ。けど、肉も神経も傷めて、もしかしたら骨も傷付いてるかもしれない。それで……」

それで歩けるのか。


「拜早はその日に歩けてた。撃たれた事忘れてるくらいに」

「……」

それは、人間として奇怪過ぎではないか。


「推測は、してた。でも……ね」

「そ、それって……じゃあ、拜早のあの足…」



あの包帯の下は、もう既に治っているのではないか?




< 279 / 361 >

この作品をシェア

pagetop