―ユージェニクス―

「ま……まさかぁ!」

そう、まさかだ。

有り得ない。


だが事実、拜早は既になんの苦もなく歩いている。
今朝も階段を降りていた。


「し、しんじられない……けど」

「うん、まだ予想だ。でももし事実なら…………研究所のせいだろうな」

下唇を噛む。

「拜早が白髪になってるのは極度の疲労とかそういうのだと思う。僕は拜早が洗脳されてた副作用だと思ってたんだけど」

もし身体に多大な負担が掛けられてああなっていたのだとしたら。



「……ちょっと待って。だけどそれって悪い事なの?怪我がすぐ治る……って事でしょ?」


「良いのか悪いのかって言ったら良い事でしょ。でも……」


そんな便利な身体、許されて良いものか。

怪我が勝手に治るという事は新たな細胞を即時作り出しているという事で。

ならその行いがまた、身体に負担を掛けているのではないか。


「解らないな…僕理科の二分野弱かったし」

「?」


どちらにしろこの推測の中では、拜早の身体は“異常”だ。




「うーん、でも、拜早の身体が例えスーパーマン染みてても関係ないと思うの」

「…は?」

「いや、うーん……拜早がフツウと違う身体になってるかもっていうのは正直びっくりなわけ。でも、それで拜早があたし達から離れるのは、オカドチガイっていうか」

茉梨亜は言葉を選びながら顔をしかめている。


「う、上手く言えないけど、拜早は拜早だから……」

何言ってるんだろうと顔を赤らめる茉梨亜だったが。



「……うん」

肯定した咲眞の表情は優しげだった。


「茉梨亜の時と同じだね」

「え?」


「……拜早、取り返しに行こうか」

「!」

「研究所だって勝手に色々してるんだし、僕らも勝手に拜早、取り戻しに行こう」

ニヤリと笑った咲眞が以外と頼もしくて、茉梨亜は嬉しくて跳びはねた。


「うん行こっ!研究所なんかに負けないんだから!」

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