―ユージェニクス―
「この事、弾くんに言っといた方がいいかな」

「え?」

「弾くんは研究所の人だけど……もしかしたらいざって時、手を貸してくれるかもしれないし」

あぁ、と咲眞は思案する。


「……でも茉梨亜、ただでさえ管原さんって研究所と僕らの事で板挟みなんだ。あんまり頼るのも悪いよ?」

黒川の事を任せた発言をしておいてなんだけど、と心で思う。

実際黒川邸が解体されたのは管原の手回しのおかげである。


「(あの人何気に凄いんだよね……)」

「よしっじゃあ弾くんには後で報告だけしておいて、あたし達は今から作戦立てるわよ!」

「あ、うん」

目を丸くする咲眞の腕を茉梨亜は引っ張り立ち上がらせる。

「ほらほら!こうしてる間にも拜早は不死身に…!」

「そだね……じゃ城に戻ろうか。準備もしなくちゃ」

「あっちょっとあたし取ってくる物がある!」


後程城に集まる事にして、二人は診療所を後にした。


今度は拜早を取り戻す……

茉梨亜の時とは状況も相手も違う。

今のこのスラムで外界の研究所に対して暴れれば、警察沙汰にも成り兼ねない。


ただ、研究所が行っている事もどうかと思う。

拜早云々の事もあるが、あれ事態放っておいて良いものなのだろうか。


「(…まぁ、そこまで僕らが首突っ込むわけにもいかないけど)」

ならばなるべく秘密裏の場所には触れずに、拜早だけ回収したいものだ。

「(あ、それは無理か…拜早が既に秘密のカラダなんだもんね)」

これは骨が折れるなと咲眞は口先を尖らせる。


だが……こうなってしまったのは……

「……拜早は悪くない。僕がもう少ししっかりしていれば」

「……咲眞?」

先行く茉梨亜が振り返った。


「……取り戻せるといいね、拜早」

「……」

茉梨亜は一度瞬きをして、パタパタと駆け寄る。


「何言ってんの咲眞!何がどーなろうとあたしは拜早を守るんだから!だから絶対救出するの!」

ガンとして肩を掴まれて言われた言葉は実直で。


「……うん」

だから咲眞の上手く言えない葛藤を、綺麗に押し留めてくれた。


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