―ユージェニクス―
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――○月×日
国民保護区域トウキョー地区にて、医療研究所を設立致します。
場所:中央ブロック
工事予定期間:□年○月×日〜△年×月末
設立終了を以って、現在の各クリニックの医師は研究所から派遣致します――
――×月○日
医療研究所内容。
内科、小児科、外科、婦人科の各医師を登録。
主な研究内容、STI…――
数年前、研究所が設立される前後日の掲示板で発表された内容……
それを覚えている民間人は殆どいないだろう。
なにせ研究所はこの掲示板での告知以降、所内容の詳細を流す事はなかったし、スラムの民間人も自分達と研究所が関係ない(関わるに値しない)と分かると、それに対する興味も削がれてしまったわけである。
実際、研究所はコンクリート塀に囲まれている。
勿論出入口はあるが、警備員による第一チェックが入るし、中には入れば施設手前で身分証と持ち物とポジションチェックがある。
つまり本格的に一般人は入る事が出来ない。
例え研究所がスラムの中央に陣取った目を逸らせない異物だとしても、民間人にとってはただのわけの分からない施設止まりだった。
研究所から診療所へ医師を派遣してくれるというのも、今まで外界から医師が来ていた事となんの変わりはないし、結局何を咎めるわけでもなく人々は研究施設の存在を放置していた。
それは茉梨亜と拜早も例外ではなく、ただ何かの研究所がある、とそれだけの認知であった。
そこが医療研究施設である事は医者が派遣されているのだからなんとなく分かってはいたが、ではなんの医療かと聞かれれば分からない。
告知を覚えていない。
「うーん、確かSTIって書いてた筈だけど」
そう答えたのはスラムでも親しくしていた秋吉である。
きょとんとした雰囲気に糸目の彼は、スラム男子独特のギスギスしたものは持ち合わせておらず、ちょっと困った時に頼れる兄さんという人物だった。
まぁ存在感が薄い、という悲しい欠点があるのだが。