―ユージェニクス―
「STI…ね。そんな告知があったんだ」
城に戻った茉梨亜はつい今の話を咲眞に報告した。
「……ていうか、そもそも茉梨亜は覚えてないんだ?研究所が建った時、もうここに居たんでしょ」
「あはは…それが全然。あたし10歳とかだよ?掲示板なんて興味なかったし……工事中の看板に何書いてたかとかも見てないもん」
研究所が建ったのは確か5、6年前。
興味のない事など人々は忘れてしまう年数だ。
「でも兎に角、研究所内部の情報がないと僕達潜入しても浮きまくりだよ。せめて自然に動けるようにはしてないと」
「そーよねー困ったなぁ。秘密な研究じゃ弾くんも教えてくれないよね……」
なんだかそれも釈である。
拜早は秘密研究の被験者なのに、自分達はのけ者だ。
「……あたし、ちょっと弾くんの所行ってくる。昨日の話もしたいし」
立ち上がった茉梨亜を見て、咲眞はパソコンのマウスに触れていた手を休めた。
「……茉梨亜、僕達のやる事は黙っててね。管原さんに変な心配させたくないし」
「分かってるわよー、拜早と研究所の事探ってくるだけ!」
あたし達の身内の事はあたし達でなんとかしないとね!などと言って、茉梨亜は咲眞の個室を後にする。
「……」
茉梨亜の姿が消えても、咲眞は何か考える様な不自然な顔をしていた。
だが頭を切り換える様に液晶画面を振り返る。
手元のマウスを動かし、キーボードを叩いた。
打ち込んだ文字は『STI』。
その詳細は、検索表にいとも簡単に現れた。
「……これって」
三つのアルファベットが意味するモノ……
あの研究所に該当する検索結果は、恐らくこれに間違いないだろう。
「……ふうん、これならなんとなく、黒川との繋がりも想像出来るね」
白色画面の青い文字列を瞳にともしながら、咲眞はなんとも言えない気持ちで呟いた。
そしてふと頭に過ぎったもの。
「あの子も……拜早と同じなのかな」
白髪の容姿……
あのシティリアートも、研究所に関わっているのだろうか。
「……」