―ユージェニクス―
「………分かってるよ」
言って、塔藤は前屈みになり座っている管原に目線を合わす。
「俺みたいなやつが黒川邸に行ったらあっという間に小姓にされてあーんな事やこーんな事を」
「黒川はちゃーんと機能するヤツを御所望だぜ?いくらおまえでも顔と体だけじゃムリムリよ〜〜」
「そぉかぁ〜〜」
「くだらん事言ってないでおまえ達早く仕事しろ」
よく分からないおどけ方をしだした二人に勅使川原が後ろから厳しい言葉を浴びせた。
「よし、じゃあ上に行ってくるよ〜暫く二人だけで宜しくね」
普段の穏やかな雰囲気になった塔藤を見送って、管原も立ち上がりパソコンの一台を起動させる。
そして管原は立ったまま、塔藤が出にくそうにしていた入り口に置かれたストレッチャーベッドを見やった。
「………」
勅使川原がタイプするキーボードの音が響いている。
この部屋にあるのはパソコンや資料だけではない。
雑然とした部屋の一角にきちんと整理された机があり、そこには試験管や薬品等が並べられていた。
多く並べられた全ての試験管には小さくラベルが貼られており、よく見ると中には細い紐の様な物が入っている。
………人の毛髪だ。
「ナンバー443、もし洗脳しなかったらどうなるんだ?」
そう訊ねたのは勅使川原だった。
「珍しいな勅使川原、おまえがそんな事聞くなんて」
「そうか?」
管原は喉で笑って、口を開いた。
「拜早はここへ来た時既に頭も身体もボロボロだった、洗脳しなかったら……動けないだけだ……」
そう言った管原の顔は勅使川原からは伺えなかったが、声色が低くなったのは分かった。
「ナンバー443、フェレッドか……」
管原が呟いた言葉に、勅使川原は眉一つ動かさず続ける。
「上も皮肉なコードを付ける」
「…捧げた少年って意味だろ?ばかばかしい」
ストレッチャーに掛けられた白い布を管原は表情なく取り去り、小さく…声にした。
「……こんな扱いで悪いな……拜早」
ストレッチャーの上には……
白の怪物が死んだ様に眠っていた。