―ユージェニクス―
「えぇっと…」
インフォメーション……いわゆる研究所の受け付けはすぐ目に留まった。
その側に立っていると、数秒もせずに白衣の男がこちらに向かってくる。
「薬剤課配属の村崎さんかい?」
その男は気真面目そうな顔立ちに不自然な黒髪が特徴だった。
「はっはい」
しげしげと顔を見られ、思わず律子は姿勢を正す。
「悪いね!今日は薬剤の方が立て込んでいて君を案内出来る者がいないんだ」
妙に寛大な口調に律子は一瞬戸惑った。
だがアポイントも無しでやって来たのは事実……
「いえっあたしこそ突然すみません!」
「いや、しかし勤務も来月だというのに見学とは素晴らしい!どこぞのバカにも見習わせたいよ!」
オーバーパフォーマンスがなかなか面白い人だな……などと密かに思いながら、律子は愛想笑いを浮かべる。
「えぇっと……」
「あぁ、僕は記録照合処理班の間宮だ。と言っても所属は薬剤課だがね」
間宮と自己紹介した男は胸を張る様に軽く反り返ったが、身長が小さい為微妙だった。
律子は首を傾げる。
「え、間宮先生は薬剤課なのに……照合処理?班なんですか?」
班と課は違う部類だろう。課の中の「照合処理班」という事か。
「いや、薬剤課から引き抜かれて今は照合処理班にいるのだよ。現在ここではあるプロジェクトが働いているからね……記録照合処理班は、その為に特設されたものなのさ」
この他にももっと班が作られているが、と間宮は補足した。
「そ、そうなんですか……」
複雑げな事情に律子は目をしばたたかせる。
まだ研究所の中身をそれ程把握していない律子にとっては、それぞれの課を理解するだけで精一杯な気がしていたが……
班は何かのプロジェクトと関係しているらしい。
「間宮先生、そのプロジェクトってなんですか?」
「ん?入社の資料に載ってなかったかい?星乾症の特効薬生成の事だけど」
「せいかん……しょう?」
「……ここがSTIの研究場所なのは解っているよね?そのSTIの中でも今力を入れて研究されているのが星乾症……その特効薬作りさ」