―ユージェニクス―
―9―
――決戦前夜。
「決戦って……別に戦争しに行くわけじゃないのに」
「だってそれくらい気合い入れないと!相手は未知の研究所なのよ!?」
都心周辺の夜は依然として明るい。
その影響を受けた微かな星明かりの下、高い高い廃墟ビルの中で新庄茉梨亜は意気込んだ。
造られ損ねたコンクリート塀からは、豪快に外界を見渡せる。
三人の城は黒紫のスラムの夜景に漆黒の影を落としていた。
「あの研究所に目にモノ見せてやるんだから!」
嫌でも目に付くあの聳え立つ施設……
屋上らしき頂上には小さな赤いランプがいくつか点滅しているのが見える。
「……そうだね」
咲眞は目を細めてそれを視界に入れた。
まだ冷える夜風が髪を撫でていく。
「拜早……大丈夫かな」
ぽつりと呟かれた言葉に抑揚はない。
それでも心の底から思っていた。
「……大丈夫」
茉梨亜が繋ぐ。
「大丈夫じゃなきゃ許さない。拜早も……あたしも」
引き止められなかった自分への後悔はずっとあった。
「……そこに僕も入れといて」
でも
「……うん」
残留思念はいらない。
動ける身体があるのだから
拜早があの時した様に
(あたしを叱った時の様に)
(僕を逃がした時の様に)
出来る事、ではなくて
そうしたいと思った事を、今度は。
「あたし達が……頑張らなきゃ」
「準備は出来てる……けど、きっと一筋縄じゃいかないよ」
「うん」
茉梨亜は傍にあった銀の銃を手に取った。
黒川邸近くの茂みで回収した38口径……
(自分を殺す為じゃない、拜早を……二人を護る為の)
「……」
銃を見つめる茉梨亜を、咲眞はそっと見据えていた。
「……今回は後ろ盾もない。黒川と違って公式の研究所を敵に回すんだから、捕まれば僕らの負け、だ」