―ユージェニクス―
ビニール傘が揺れている。

茉梨亜は冷えない様に大きめのロンTにカーゴパンツを履いていた。

以前はフィットしたTシャツや動き易いミニスカートも好んでいたのだが、最近はもっぱらズボンばかり。

「(可愛いアンサンブルの服とかもいいけど…どうしたって似合わないのよねー)」

自分の服装を見下ろしながら、茉梨亜はダラダラと目的地を目指していた。




「あれ?あれは……」

ふと茉梨亜が顔を上げると、見知った顔がこの雨の中を傘もささずに佇んでいる。

澄んだ白髪。


「シア!」

思わず茉梨亜は駆け寄った。


「! 茉梨亜」

「どうしたの!傘は?」

そう尋ねると、見上げたシアはあどけない苦笑した顔。


「忘れちゃった」

「そうなの…?でも、こんな冷たい雨じゃ風邪ひいちゃうよ!それに禿げるし…」
おどおどしながら自分の傘の中を差し出した茉梨亜に、シアはふふふと笑って素直に茉梨亜に並んだ。

それにしても、と茉梨亜は首を傾げる。
「シア、こんな日に出掛ける用事とか?」
「うぅん、ただ散歩してただけ」
「えっ?!」

「雨ってボク好きなんだぁ……全ての汚れたものを洗い流してくれるみたいで」

ビニール傘から覗く、空高くから降り注ぐ雨。


「シアって変わってるわねー、雨って色んな成分が入ってて、寧ろ身体に悪いのよ…」
「もちろん知ってるよ」
シアは笑う。
「でもね、中和ってあるでしょ?そうなったらいいなって」

シアの言葉は、自分も汚れたものと言っている様だった。


「それって…」

「でもやっぱり冷たいね、そういえば茉梨亜はどこに行くつもりだったの?」

話を綺麗に終わらせて、なんでもない様にシアは問う。

茉梨亜も堀下げず話題を変えた。


「あたしはねぇ、ちょっと知りたい事があってこれから診療所に行くの」

「え、茉梨亜元気そうに見えるけど……」

「ァハハちがうちがう、そこのヤブ医者に用があってね…管原弾っていうんだけど」
「管原…」

その単語に、シアが目を丸くしたのを茉梨亜は気付いた。

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