―ユージェニクス―
「塔藤!」
呼ばれて金髪の男は振り返る。
当然ながら、当初は批判を受ける標的だったこの髪色。
それは彼が頑として黒に戻さなかった事に加え、外見など技術に関係ないと積み重ねたキャリアが、周囲を黙認させるに値した。
……何故彼がこんな不真面目な髪色を貫くのかは、同期や今彼を呼んだ管原すら知らない。
「おまえは見つけ易くて助かるな〜」
目標を捕らえた安堵で、管原は小走りに彼に近付く。
「やぁ管原。探させた?」
塔藤は先程のやり取りなど無かったかの様に穏やかだ。
「いんや、そこでおまえがこっちに行ったってスタッフが教えてくれた。で、なんの用だ?」
どこか余裕のある振る舞いで、管原は言葉を続ける。
「と言いたい事なんだけどよ」
「?」
「上からのメール、着たか?」
「ああ……観崎さんから上層部経由のやつなら着たけど?侵入者補足について……それがどうかしたかい?」
管原の言いたい事が分からず塔藤は疑問符を投げた。
「そうか……課か班の主任に送ってるみたいだな」
「たぶんね。所属員に連絡し各自対処って言われてるけど……何、管原にもメール行ったの?」
塔藤は携帯を開き、カチカチと先程着たばかりのメールに目を通しながら問う。
「俺、さっき観崎センセイから直にメール着た」
「! ……なんて?」
管原も携帯を取り出し、その画面を塔藤に見せる。
受け取った塔藤は半ばぽかんとした顔で確認し……
「……これ、結局『この件にキミは動くな』って言ってるのか」
「あぁ。上手い言い回しだろ」
管原は携帯を嘲笑する。
「……管原、この前の黒川邸騒動の後に釘刺されたんだよね」
「でもそれだけじゃ不安だったんじゃね。この騒ぎに紛れて何か仕出かされたら困ると思ってんだろ。念には念を……ってな」
「……どうするの。侵入者は茉梨亜君だったよ」
塔藤は至って普段と変わらない顔付きで管原を見上げる。
端から見れば事務話でもしてるかの様だ。
「知ってんよ、咲眞も来てるしな。けど……」