―ユージェニクス―
管原は口の端を上げる。

「…釘刺された時点で俺は手出し出来ねぇし、する気もねーよ。俺が研究所(ここ)を裏切りでもしたら、あいつが……」


ふと廊下の先を見つめ、塔藤は呟く。

「……あの子達より、香さんを取るんだね」

「当たり前だ。俺は忠告はしたぜ」

そう言い切った管原も、真顔で廊下の先を見やった。

「……」



こちらに向かって歩いてくる人物がいる。

と比例して周囲が騒がしくなり始めた。

侵入者の事情が各部課に伝わったのもあるだろうし、その歩いてくる人物があまり研究所内に顔を出さないのもあるからだろう。


「盟代……」

管原の呟きは塔藤に無視された。

「あっ聞いて管原!俺さっき閃光弾みたいなのをぶっ放されたんだよ」

「はぃ?」
流石に管原も変な顔をする。

「茉梨亜君が俺から逃げる為に投げ付けて来てさぁ、ピカピカーって眩しいのなんの!あんなの初めてだよ〜」

言って、辿り着いた人物を見る。

「盟代さんみたくサングラス掛けてたら良かったかな?」

背広の上に羽織られた白衣に、調えられた髪。掛けられたブラウンのサングラスは、彼の表情を捉えにくくさせるのに絶好だった。


「へへ……白衣が似合わない格好ですねー」

口を開けば軽口が叩けるのは管原の特権だろう。

「着たくて着ているわけじゃない」

低く冷たい声色が、管原のこめかみを少し動かし塔藤を苦笑させた。

研究所内の殆どは薬品等の関係上、研究員は白衣の着用が義務である。
もしも何かの液体が掛かりでもしたら、という配慮なのだが。


「アンタも研究者の成り上がりのくせに偉そうなこって」

かなり失礼な上司への言葉を管原は飄々とした態度で伝える。
盟代はそれを気にも止めない。

「こちらからの連絡は確認したな?」

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