―ユージェニクス―

咲眞の目が目前の白衣の男を捕らえる。


「……仕方ないな」

「んっ?何か言ったか!?」

男はズカズカと部屋に入り咲眞の前で、咲眞と折笠を交互に指差した。

「とにかくその二人!一度こちらに来てもら……っ!?」

瞬間男の身体が跳ね上がった様に見えた。

「な……ど、どうされましたか!?」

傍に立っていたままだった警備員が思わずうろたえて近づく。

「分からないわ!突然倒れて……貴方、誰か呼んで貰える?」

「は、はい!」

咲眞の指示に、警備員は疑う事もなく部屋を飛び出していく。


「……さーて、うかうかしてられないね」

「……スタンガンですか」

男の白衣を遠慮なく剥ぎ取る咲眞を見下ろしながら、折笠が声を掛けた。

「……貴女はこれからどうするんです?」

「咲眞……」

シティリアートも不安げに眉根を寄せる。


「とりあえず軽く着替えるよ……カメラの事考えないといけないけど」

ちらりと天井の監視カメラを確認しながら、手早く白衣を手持ちの鞄に入れ込める。

「本当はもっとシアに色々聞きたかったんだけど…それにアンタの正体もね」

立ち上がり折笠を見据えると、その端正な顔立ちはどこか呆れ顔を含んでいた。

「貴女は無茶ですよ。研究所に乗り込み研究員にまで手を出して……」

倒れている男を一瞥して続ける。

「……ま、貴女が“咲眞”さんというのなら、僕は貴女に付いて行かなくちゃならなくなりましたけどね」

「は?なんで……まぁいいや、好きにしてよ」

時間がない。あの警備員はすぐに誰か人を連れて戻ってくるだろう。それまでに移動しなければ。


「咲眞……」

不意にきゅっと服の裾を摘まれる。

シティリアートが薄い瞳で見上げていた。

「ボク心配だよ。ホントに危ないんだよ?ここは……」


「……」

目線を合わす様に屈み込んで、咲眞は小さく微笑む。

「大丈夫。上手くやるから……シアはそんな顔しないで」


「……っ」

何かを言おうとして、だがシティリアートは一度口をつぐむ。


「……シア?」

名で問うと、シティリアートは決断した様に咲眞の目を見た。

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