―ユージェニクス―
「拜早は……たぶん地下に居るよ」
「!」
「プロジェクトの研究室……ほとんどそこに居るって聞いた。一階に直接の入口があるんだ」
一階に入口。
確かに盲点ではある場所だ。
「……ありがとう」
そう言うと、シティリアートはこくりと頷く。
「それにしても、あの茉梨亜が咲眞だったなんてほんとびっくり」
くすくすと微笑まれ、咲眞の頬がほんの少しだけ桃色になる。
「本当の咲眞だったらあんなおじさん達、あっという間に蹴散らすんだろうな」
そんな事を言われ、自分に呆れる様に
「……シアみたいにね」
ふと苦笑していた。
「気をつけて、ね」
咲眞を見上げたその表情は、ただ一人の、小さな子供のものだった。
携帯を開きながら咲眞が舌打ちする。
「やばいな」
「どうかしましたか?」
「……ちょっとね」
携帯画面には新規に表示された新着メール文。差出人は茉梨亜。
(塔藤さんに見つかったか……なら管原さんにも連絡が行くだろうな……大体さっきの僕の変装が管原さんにバレてないかどうかも怪しいのに)
携帯を口元に当て素早く思案する。
「茉梨亜は5階……か」
廊下には都合よく誰もおらず、ここは確認出来る監視カメラも二台だけ。
積まれた段ボールの壁に隠れてしまえばれっきとした死角だ。
(シアの部屋の監視カメラも見られてるし、水面下の行動はもう限界かもしれない)
咲眞はパチンと髪の中に隠された止め具を外す。
(隠密に処理するのは研究所の方が得意だろうし、だったらいっその事こっちから引っ掻き回した方が…)
セミロングのウィッグがずるりと落ち、黒に金のメッシュが入った咲眞本来の髪が現れた。
既に背広と胸の仕込みは取り、パンツスーツの上から白衣を纏っている為、どこかの誰かの様な派手な研究員に見えなくもない。
レディースの鞄も適当に隠し置いてきた。
(拜早が地下に居るにしても、誰かしら研究員が傍に居るはず……機密プロジェクトなら、下手したら幹部やトップが……?)
「咲眞さんって」