―ユージェニクス―

折笠が不意に名を告げたので、咲眞は拭くだけ化粧落としとやらを手に摘みながら振り返った。

「何?」

「咲眞さんって男だったんですね」


思わず怪訝な顔で折笠を見返す。


「成る程……今まで反応がイマイチ女性っぽくないとは思ってたんですが、納得しました」

あっ……そう、という少し呆れた半笑いな顔を相手に返し、咲眞も口を開く。

「ねぇ、いい加減アンタの事も教えてよ。じゃなきゃ一緒に居られるのも気が休まらないんだけど」

皮肉っぽくそう要求したが、折笠はそれに答えずただ薄い笑みを作るだけ。


「僕の事よりこれからの事、ですよ。どうするんですか?」

「……なんか僕の回り、話の擦り替えがステータスな人ばっかりな気がするんだけど」

不精髭セクハラ医者とか金髪研究員とか茉梨亜とか(人の話を聞かないタイプ)

と、不意に彼らしい顔付きに戻り、咲眞は白い壁に触れた。

「……騒ぎを起こそうと思って」

「え?」

折笠はぱちりと目を丸くする。


「食えない奴に友達が見つかったし……シアの部屋の監視カメラにしても、たぶん不審人物が居るって事は警備員に伝わってるはず。……という事は所員にも少なからず報告されてる」

「……でしょうね」

「そこで内密に調査してる最中、もし僕らが捕まったら?」

問い掛けられ、折笠は訝しげに目を細める。

「不法侵入になるんじゃないですか?だから警察に……」

「違うと思う」

確信的な咲眞の否定に、折笠は首を傾げる。


「……というと?」


「公の場に連れてなんて行かれない。だって研究所(ここ)が既に不法地帯なんだ。そこからもし機密情報を収集されでもしたら……」

「……研究所は侵入者をどうすると思うんですか?」


「……それは分からない。けど、どうやっても口止めはすると思う。そして外に出さない」


折笠は少し表情を伏せ、口元に手を当てる。

「……侵入者が大の大人ならそうかもしれませんね。けれど侵入者が子供なら、その機密報告が例え真実でも、所長の観崎氏の尊厳からしてただの戯言だと外界では取られるでしょう」

「子供……」

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