―ユージェニクス―
―8―
「……で、これが俺の見解ってわけだ」
「そんな……信じられないわ」
白い部屋。簡素なベッドに設備された医療器具。
机には整理されたカルテに、完食されたカップラーメン。
Bブロックの診療所で管原は事務椅子に、棗は待合スペースに置かれた黒いソファに座っていた。
お互いを遮るものはなく、管原は棗が困惑しているのが見て取れている。
「でも、どうして茉梨亜ちゃんに……」
「それは流石の俺様にも分からないな。でも予想はつく…」
「え?」
「おそらく拜早と同じ想いから来てるな、“あれ”は」
管原はどこか確信的な顔をしていた。
「やってる事は全く違うけどな」
「……? どういう事よ」
棗は考察にピースが足りず、酷く眉を顰めたまま管原を見上げる。
「拜早、茉梨亜に会っただろ、それでスイッチ入ったみたいで…茉梨亜を殺るって叫んでた」
「え?!」
思わず棗はのけ反った。
「ま、待って弾、順番に説明して?」
頭がこんがり出した棗は両手で管原の発言を制止する。
「いぃかー?あの日拜早は“茉梨亜”に会った。それまでは精神的負荷や洗脳で過去の記憶はあやふやだったが、茉梨亜の姿を見て一瞬目が覚めたんだ。それで…茉梨亜を殺そうとした。あの後機関が拜早を捕えてからも、時々茉梨亜を殺してやるって叫んでたらしい…」
管原は胸ポケットから煙草とライターを取り出し、慣れた手つきで火を付ける。
「…拜早君が茉梨亜ちゃんを殺そうとした事と、あの子のやってる事が…同じ想いって弾は思ってるわけね…」
「あぁ。どちらも」
管原は先に煙を細く吐いてから言った。
「茉梨亜を無くそうとしている」
「………」
沈黙が、流れた。
「ちょっと、弾…それなら拜早君をスラムにまた放したのは危険じゃないの?もし“茉梨亜”の姿をまた見かけたら今度はどうなるか……」
「…そうだな、今度はやばいかもな…」
棗がほのかに焦躁の顔色を見せたが、管原は頭を下げてみただけだった。