―ユージェニクス―

「研究員っぽくって言われてもー……」

通話が切れた携帯電話を離しながら茉梨亜は唸垂れる。

「ていうかこの辺にまだ塔藤さんもいる可能性あるのよね……咲眞、大丈夫かなぁ」

と瞬間、一際つんざく様な警報が鳴る。
壁に掛かる赤い光が蛍光色に点滅を始めた。

「ちょっ…ええっ今度はこの階!?」


『――――ガッ』

どこから発せられているのか、スピーカーのノイズが走った。

『――現在不審人物と思われる者は5階Aフロアを逃走中。警備員が向います。尚、この警報は認識の範囲ではありません。各所員は通常業務を再開して下さい』



「咲眞さん、大丈夫なんですか……そんなぽんぽん警報鳴らして」

「……」

咲眞が押した5階の警報機は、先程のものと同じく金切り音を上げている。

そして今の放送のリンクは偶然で、咲眞が押した警報とは関係していない。

「……ま、なんとかなるんじゃない?」

微妙な顔をして笑った咲眞の背後から、ドタドタと足音が鳴り響く。

振り向けば幾人かの警備員がこちらへ向かって来ていた……


折笠は咲眞を見やる。

「咲眞さん」
「……」

先頭の警備員が咲眞達の前で足を止めた。

「失礼、気になる人物を見かけませんでしたか?」

そんな状況でも咲眞は悠然と構え、

「こちらです、来て下さい」

と在らぬ方向を指差した。
そして駆け出す。


「な……」

走り出した咲眞と通り過ぎる警備員を見送る羽目になった折笠だが、少し肩を竦めてから彼らを追いかけた。


(適当に追いやって、茉梨亜を見つけないと……)

廊下の壁際を見ると、右向きの矢印に『Bエリア』と表示されている。


「あの…」

咲眞が後ろから付いてくる警備員に口を開きかけ、曲がり角を曲がった……

と、その進行方向の視界に見知った人物が入る。


「あ……」

思わず目を丸くし、相手もこちらに気付いた様だった。

「さ…くま!?おまえなんで白衣…!」

「っ!」

だが構ってはいられない。
廊下の先に立つ管原と塔藤を視認しながら、咲眞は口を開く。

「向こうに向かったのを見ました!恐らくBエリアの方に……」

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