―ユージェニクス―
警備員達は頷くと咲眞の指した方向へ疑いもなく走り出す。

管原と塔藤はそれを眉を顰めながら見送り、静かに咲眞へと向き直った。


「何してるんだぁ?オマエ」

軽い口調で管原が問い掛けてきたが、咲眞は意識的に警戒した。


「べつに、ただの社会見学だよ?」

低く答える。


「白衣着てか?オマエ……あいつを連れ戻す気だろ」


……管原は協力的だ。

と、思っていた。スラムでは。

だが……


「そして管原さんは、それを止める気……だよね?」

にやりと口角を上げられる。

「……ああ」

研究所に関わる場合、“研究員”はいくら親しくても信用出来る要素にならない。

管原の事は、信用していたかったけれども、でも


「……茉梨亜が」

咲眞が口を開く。

「管原さんに相談しようって言ったんだ。拜早の事」


――その管原の様子と、塔藤の立ち姿が信用を許さなかった。


「でも僕が止めた。あなたにこの事を話すのは、良くないと思ったから」

「おや?俺ってばそんなに使えなさそう?」

男は肩を竦めてみせる。

咲眞の背後に立つ折笠は、口を閉じたまま目前の研究員達を見つめていた。


「管原さんは……色んな事を隠してるでしょ?」

ふ、と 咲眞も笑う。

「だから信用しなかった。それにこういう事態になる事も嫌だったし」


「相変わらず深読みするタイプだな、咲眞クンは」

管原の横、塔藤が一歩踏み出そうとする。
それを管原は片手で制した。


「おまえは戻れ。放送聞いただろ」

「けど管原」

食い下がりかけた塔藤を笑みで見下ろすと、何かを感じたのか金髪の研究員は動きを止める。


「……仕方ない。戻るとするよ。けど管原、絶対止めなよ」

語尾が酷く事務的に聞こえた。
いや、事務というより命令に近い。
自然に告げられた塔藤の言葉は……容赦がないものだった。


その塔藤に対する答えは管原の顔を見れば分かる。

スラムでのあの剽軽さはなく、ただこちらを嘲笑している様に見えた。

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