―ユージェニクス―
管原と対峙する咲眞と折笠。

所内に鳴り響いていた警報はやはり誰かが切ったのか、突然その金属音を停止させた。


「おまえら、こんな事してたら心臓幾つあっても足りねぇぞ?」

「……お生憎様、ここでなら例え死にかけても、無理矢理生かされると思うんだけど?」

その言葉にぴくりと管原の片眉が上がる。


「何言ってんだ……オマエ」

「拜早の足の事……知らなかったなんて言わせないから」

静かな声色で咲眞は続ける。

「黒川邸の時、銃で撃たれた傷…その後拜早は普通に歩いてた、よね」

管原の目付きが、僅かに変わった。
それに気付いているのか否か…咲眞は鋭く言い切る。

「あの時診療所で、勅使川原さんは僕に治療中の拜早を見せなかった。それって、もう治りかけてる足を見られたくなかったんじゃないの?研究所が関わった拜早の体を、知られたくなかったんじゃない?」

その意味は憶測でしかない。けれど……


「ははっ」
と、目の前の医者であり研究員である男は笑いを返す。

「言ってる事が俺にはさっぱり……」

「じゃあ今すぐ拜早の足を見せて」

「! それは…」

それで明らかに管原の顔が歪んだ。


「拜早は、怪我してもすぐ治る身体になったんでしょ?」


……その言い分は、この研究所の存在理由とずれている。

「ねぇ管原さん?この研究所はSTIの…性感染症ってヤツの研究施設のはずだよね」

だが拜早がされたであろう事は、それとおそらく関係のない……


「……なぁ咲眞」

……が、咲眞の発言はきっと正解だった。

管原の表情がそう言っていた。

彼は相変わらず掴み所の無い笑みを浮かべていたが、

「俺が、しらばっくれたらどうすんだ?」

「拜早が、生き証人なんだけど?」

問われた事に即座に切り返した。
今回は言い逃れをさせるつもりはない。


「……おまえが拜早を連れ戻した時点で、“これ”が公になるのは必至、ってコトね……」

管原は盛大に溜め息を落とす。

それが恐らく、管原が覚悟を決めたスイッチだった。


「あーあ、残念だな咲眞。俺はおまえらを気に入ってたんだが」

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