―ユージェニクス―
「ほ……ほら、笑われちゃったじゃない!」

「え、僕のせい?」

パタパタと茉梨亜は折笠に近付き、屈託の無い笑顔を浮かべる。

「そうだ折笠さん!折笠さんってトシはいくつ?」

先程“何してる人?”と尋ねたところ、けろっとして“内緒”とかわされたので主旨を変えてみた。

「カノジョはいるの?」

「はぁ…」

「何茉梨亜、拜早から乗り換えるんだ?」

少しニヤリとした顔で咲眞は横槍を入れる。

「違うもーん、折笠さんイケメンだしどーなのかなぁって!」

「イケメンって……また古いね」

咲眞が地味に呟く間も茉梨亜は返答の催促をしている。

「うーんじゃあ茉梨亜さん、俺何歳に見えます?」

「そうね…十九とか二十歳かな!」

「はははっよく言われる」

苦笑してその答えを否定した。
「えーっ」と悩んでいる茉梨亜の横で咲眞は訝し気に首を傾げる。
折笠のキャラが全く分からない。
堅物かと思えばそうでもなく、今は笑ってさえもいる……

「じゃあほんとはいくつなのー?」

咲眞もなんとなく、彼の顔を見上げた。

「もうすぐ三十二だよ」


「……茉梨亜、僕ちょっと眼鏡買ってくる」

「待ってあたしも」

踵を返した咲眞の肩を茉梨亜が掴んだ。


「それはそうと……ちょっと困った事になってるよ」

顔に笑みを残しながら、折笠は前方の壁に手をついた。

いや、壁……ではなく。

「あれ、これって防火シャッター……」

茉梨亜が口を開いてそれを見上げた。

床から天井までの空間を、白と灰色の太いボーダー線が占めている。
警報の時に作動したのだろうか。

「兼防犯シャッターだね。この向こうが階段なんだけど……」

折笠はそれを軽く叩く。

「開きそうにはないね」

「開いても……それが周りに伝わってまたバタバタするだろうしね」

少し咲眞は周囲に目をやる。

巨大な一面窓硝子の部屋がすぐ横にあった。
部屋の中は硝子のお陰でよく見える。

……電気は点いているが誰も居ないようだ。


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