―ユージェニクス―
「……はぁ?」
意味合いが解らず咲眞は目を細めた。
「研究の為に見るんだって。それでレポート書くとか…」
行為を見られる、見せられる――という黒川の場所。
反してここでは行為を検証して、見定めるとでもいうのか――
「……最悪」
「……」
茉梨亜はそう吐き捨てて立ち上がり、咲眞はなんとも言えない表情でベッドを見ていた。
今まで黙っていた折笠は、そんな二人からふと視線を外す。
「――誰か居る」
その言葉に反応すると、部屋の扉側から一人の人物が現れた。
「……随分卑下されちゃったね」
シャッターの向こう側に繋がる扉の前……いつからそこに居たのか、その人物は直ぐさま侵入者達を見据える。
「――うそ」
そして茉梨亜は目を丸くした。
咲眞も、眉を寄せる。
「あーあ、資料取りに来ただけだったんだけど……まさか侵入者くん達と出くわすなんてなあ」
その人物は明るい茶の髪ではあったが白衣に眼鏡を掛けていて、言動といい明らかに研究員だった。
「しかも君達だったなんて。弾から冗談半分に“あいつら来るかも”って言われてたとはいえ、正直驚いちゃった」
「香……さん」
茉梨亜と咲眞はこの人間を知っている。
管原の診療所でよく会っていた。
「で?最悪って言ってくれたけど……茉梨亜ちゃん、それはこの研究に体張ってる皆に失礼だと思わない?」
こつこつと緩やかに研究員は近づく。
眼鏡から覗く顔立ちはどこか残念そうで、口調は低くも穏やかだった。
「香さん……でもあたし、こんなのおかしいと思う」
茉梨亜にしては珍しく、語尾に怒りが含まれていた。
そんな様子に研究員は困った様に肩を上げる。
「仕事なんだ。だからしょうがな……」
「しょうがないなんて変!!」
茉梨亜のはっきりと高い声が響いた。