―ユージェニクス―

「仕事って……それ黒川とやってる事同じでしょ!?そんなの胸張って言える事じゃない!」

気真面目な皮を被った研究員が、揃いも揃って黒川と同類の様に思えて。

このガラスケースの中の行為を外側から観察するのか。この部屋で。

「信じらんない!!」

むしろ研究と称しているからこそ余計に吐き気がした。


「……」

香は橙に近い茶の髪を困った様に掻き上げる。

「うーん、私も結構頑張ってたんだけど、そんなに否定されると辛いな」

苦笑して、茉梨亜を見た。

「確かにどう思われても構わないけど、研究は真剣なものだよ。大事な事なの」

「そんなの知らない!香さん……弾くんだっているのに、こんなの見て……」

気が張って思わず泣き声になる茉梨亜に香は首を振る。

「私は見てないよ、被験者……見られる方だったから」
そしてなんでもないという風に自分の立場を口にした。

「え……?」


「被験者のナンバー付いてるの私。それで男の被験者の人と一緒にその被験台でお仕事ってわけ」

白いベッドを指差して、まあちょっと前の話だけど、と付け足す。

「もう星間の発症原因は解ったし、新薬もほぼ完成してるから。私の身体張った役目は終わってる」

その言葉に、離れた場所に居た折笠の眉がぴくりと動いた。

咲眞が口を開く。

「香さんが身体張ったとかって……管原さんは知ってるの?」

「勿論」

「止めなかったんだ」

「仕事だし、てか私達恋人でもないからね。あ、あいつテストを謁見した事あるよ。あれは笑えた」

そんな飄々と言ってのける香が、茉梨亜には理解出来なかった。

恋人でなくても、そんな、いつも一緒だった人に見られるなんて。

「香さん、絶対おかしい……」

その言葉にも困った様に微笑むだけで。


でも確かに、自分はどこか麻痺しているのかもと香は思う。

ナンバーに抜擢され、病原菌を投与され、発症させる行為を検証して。

それでも研究の成果の為。
これで少しでも発症者が減り完治者が増えるならと。

その思いだけで壱村香は働いた。

そして自分へ向けられた心配を気付かない様にした。

でないとくじけてしまうから。


< 353 / 361 >

この作品をシェア

pagetop