―ユージェニクス―
茉梨亜はゆっくりと横目で、ガラスケースの中のベッドを見る。
簡素な白いダブルベッド。
それは頭の中で黒川の豪華な天蓋付きベッドとリンクして。
「……あたしも研究所に売られたら良かった」
ぽつりと。
「同じ事やるなら、研究で人の為になりたかったな……」
「……茉梨亜」
実際には、あの黒川邸へ誘拐された時点ではナンバーはもう星間症のそれではない。
けど、茉梨亜の言いたい事は汲み取れた。
「茉梨亜、行こう」
「……うん」
部屋の奥の出入口。
折笠に指示された形で、香は向こう側へ続く扉を開けたが、難しい顔をしていた。
「ねえ茉梨亜ちゃん……あたしも売られたらって、どういう事?研究所が被験者を買うって事?」
眼鏡の中で、瞳が困惑している。
「あ……それは……」
茉梨亜は言い淀む。香が“研究所”をどこまで知っているか分からないし、説明している時間もない。
「管原さんが知ってるよ」
と、咲眞が口を挟む。
茉梨亜と折笠に先に出ててと促し、部屋に留まる香に近付いた。
「ねぇ香さん、仕事で忙しいのも分かるけど、もう少し管原さんとの時間取ってあげたら?」
「え?」
ここで言われるとも思っていなかった忠告に香は目を丸くする。
「それでさ、付き合うなら付き合って上げてよ。あ、別にこれ管原さんの為に言ってるわけじゃないよ」
そうして咲眞は、軽く肩を竦めて笑った。
「二人がそんな微妙な関係だと、姉さんが可哀相だからね」
研究所のとある会議室。
広くはない。
席は十いくつかといったところ。
そこには白衣を着た沢山の人間が何人か居て、各々状況の整理をしていた。
「最初に連絡があった侵入者ですが、塔藤さんが発見されましたよね?」
「15、6歳の少年と少女です。恐らく保護地区の子でしょう」
塔藤はあくまで侵入者を初見したものとして補足した。
「しかし、勝手にここに入り込めるわけがない。セキュリティが……」
「そんな事はどうでもいいでしょう、現に入り込み、騒ぎになっている」
「……」