―ユージェニクス―
ふと、間宮に会った時の事を思い出していた。
きちんとしたスーツの身なりに、髪の形が不自然で饒舌だった男。
あのカフェテリアで自分への洗脳の説明をされた。
けど話がややこしいと思って、考えるのを止めたんだ。
人を勝手に使って勝手に洗脳して、それをあたかも高度な技術だと言うような。
あれだけ研究所の理不尽な話をされたのに。
その話を文句も言わず聞いていただけ。
「そうだよな……やっぱり、黒川の時と似てるよな」
白い部屋で呟く。
黒川邸騒動の後、間宮の夢を見た時に思った。
間宮の説明に対し、“どうでもいい”という思考回路。
黒川邸に居た時に脱出を考えなかった気持ちと同じ。
「なあ、黒川に変な薬のサンプルでも渡してたのか?もしかして麻薬とか?」
目の前の気配に拜早は皮肉染みた笑いで問う。
「ばっ馬鹿を言うな!麻薬なわけがないだろ!」
相手の声は部屋によく響いた。
白衣を羽織り手にはカルテ。髪型の不自然な男が、つまらなそうにベッドに座る拜早を見下ろしている。
「あれは観崎先生が試作した素晴らしい薬なんだぞ!麻薬などと言っ……」
「でも黒川には売ってたんだろ?なんでだよ」
見えない目で間宮の方を向いてみた。
拜早の両目には目隠しの様に包帯が巻かれている。
「黒川さんは試作品のモニター協力者だ!何か問題あるか!?」
問題――そんなの。
「あるに決まってるだろ。くそ……」
その“薬”の効力なんてとっくに切れている。
ここに捕われたのは完全に拜早の意思。
けど、拜早だって三人組の一人なわけで。
ただ黙ってこんな場所の研究材料にされようなどとは
思ってなかった
のに。
(甘かったか……)
包帯の下、視力を潰された目で間宮を睨んだ。