―ユージェニクス―

茉梨亜は無意識に、微かに震えていた。

どうして身体がこんな反応をするのか……

「………」

管原は茉梨亜の状態に、医者として目を細める。

とりあえず近くの診察椅子に茉梨亜を座らせ、管原は茉梨亜の前に立ったまま質問の答えを返した。


「“茉梨亜”の居場所は、正確には俺も知らない……それに、聞いてどうするつもりだ？」

逆に管原の問い掛けに、茉梨亜はどこか困惑した表情を浮かべる。


「……分からないわ…ただあたしは、知りたいの」

そう、突然

“もう一人の茉梨亜”は突然現れたのだ。

今まで暮らしてきてそのような自分とそっくりな“茉梨亜”の話は聞いた事がなかった。


――あの時

「あの時……」

茉梨亜は呟いていた。

「白の怪物に会った時から、何かが動き出したのよ」



「………時間」


「…え？」

管原が口を衝いた言葉に、茉梨亜は顔を上げる。


だが管原は先の単語に続けなかった。


「茉梨亜、俺は“もう一人の茉梨亜”の居場所を把握はしてないが……奴なら、恐らく確実に知っている」

管原の、どこか真面目な口調にも躊躇する事なく、茉梨亜はヒントを得たかの様に続きを求める。
「ぇ、……奴って？！誰？！」


これは賭だ

と、管原は思った。

この“茉梨亜”がどうなってしまうか。

「お願い教えて！あたし、どうしても先に進まなくちゃって！今そんな気持ちなの！」

（全てが上手くいく保証はない……）
管原は困惑の思いで茉梨亜を見た。

茉梨亜は今、恐らく身体も精神も無意識に限界が来ているのだ。

だから、知りたくもない、“思い出したくもない”のに、身体が悲鳴を上げていて無理矢理にでもこの状況から抜け出そうとしている……



「茉梨亜、奴ってのはな……」

管原は、自分を落ち着かせながら言った。

「“茉梨亜”のダチ……関根拜早」

「拜早……」

確か、茶髪の“茉梨亜”の友達。


「今、白の怪物として逃走している奴が……そうだ」



「―――！！」