―ユージェニクス―
「………あ、先客」
高い声がした。
白い少年は寝ていた身体を上半身だけ起こす。
「……」
廃屋唯一の出入口には、見知らぬ子供が入って来ていた。
―――白い髪、青みがかった茶色の目。
「お邪魔しちゃった?…ごめんね」
「…君は」
白い少年は初めて対峙するその子供に抑揚のない問い掛けをした。
「シ……シティリアート」
少し小さな声で言う。
「……どこかで聞いた名前だ」
どこかで。
忘れたけど。
自分の白髪よりも、その子供はもっと白髪だった。
自分はまだ薄く茶色がかった部分もあるし、瞳も茶にとどまっている。
だがこの子供の髪は雪の様に真っ白で、瞳も青や緑に近いものを持っていた。
「………入れば。俺はもう休んだから」
すっと立ち上がり、髪も服も白い少年は廃屋を出ようと扉へ近づく。
シティリアートは少し怖がっているかの様に身体を左へと避けた。
少年はシティリアートを見る。
「君、何でそんなに頭白いんだ?」
「………ひみつ」
シティリアートは白い少年を目線だけで見上げながら、気圧されない様に答えた。
少年は深く詮索する事も無く、ふーんとだけ呟いて扉を開ける。
そのまま振り返りもせず廃屋から去って行った。
「………」
残されたシティリアートは、少し開いたままの扉を暫く見つめていた。