―ユージェニクス―
見知った道を迷う事などない。
周りをろくに見ずに走っても、その前に行き着いていた。
「はーっ…たく!ほんと世話のやける奴!」
呼吸を整える為の息を思い切り吐いて文句を言う。勿論自分が人の事を言えないのは重々承知の上で。
懐かしい錆とコンクリートの香りが風に乗る。
「咲眞…待ってろよ」
城―――
とは言うが、外観なんかは建築途中で投げ出された廃ビルそのものだ。
建ち上るビルの至る所にそのまま放置された鉄筋や、クレーン車の首が突き出しているのが見える。
入り口を含む一階部分は廃棄場に成り果てており、鉄の瓦礫が散乱していてどこから建物内に入るのか全く分からない。
拜早はそれらを目を細めて一瞥し、歩みを進めた。
三人しか知らない、秘密の入り口。
――おいおい、よくこんなとこ見つけたな
――風が吹いてきたからね
にっこりと笑う金メッシュの友人の顔を思い出しながら、拜早は両手に力を込める。
そして…
地面のマンホールに指を掛けた。
さほど重過ぎる事もなく、鈍い音がして蓋が隙間を覗かせる。
人一人がぎりぎり入れるかという穴の底からは、以前と変わらず風が流れて来ていた。
城が巨大な廃ビルといっても流石建築途中放棄、ビルの中は穴だらけ。その中を渦巻く空気が水道管を使って流れてくるのだそうだ。
「あ、ライトとかねーや…」
片足を暗いマンホールの中に突っ込んだところで手持ち無沙汰な事に気付いた拜早だが、面倒臭そうにそのまま掛かる鉄梯子を下っていく。
「まなんとかなるか」
マンホールは閉めず明かり取りにし、拜早は地上から姿を消した。
周りをろくに見ずに走っても、その前に行き着いていた。
「はーっ…たく!ほんと世話のやける奴!」
呼吸を整える為の息を思い切り吐いて文句を言う。勿論自分が人の事を言えないのは重々承知の上で。
懐かしい錆とコンクリートの香りが風に乗る。
「咲眞…待ってろよ」
城―――
とは言うが、外観なんかは建築途中で投げ出された廃ビルそのものだ。
建ち上るビルの至る所にそのまま放置された鉄筋や、クレーン車の首が突き出しているのが見える。
入り口を含む一階部分は廃棄場に成り果てており、鉄の瓦礫が散乱していてどこから建物内に入るのか全く分からない。
拜早はそれらを目を細めて一瞥し、歩みを進めた。
三人しか知らない、秘密の入り口。
――おいおい、よくこんなとこ見つけたな
――風が吹いてきたからね
にっこりと笑う金メッシュの友人の顔を思い出しながら、拜早は両手に力を込める。
そして…
地面のマンホールに指を掛けた。
さほど重過ぎる事もなく、鈍い音がして蓋が隙間を覗かせる。
人一人がぎりぎり入れるかという穴の底からは、以前と変わらず風が流れて来ていた。
城が巨大な廃ビルといっても流石建築途中放棄、ビルの中は穴だらけ。その中を渦巻く空気が水道管を使って流れてくるのだそうだ。
「あ、ライトとかねーや…」
片足を暗いマンホールの中に突っ込んだところで手持ち無沙汰な事に気付いた拜早だが、面倒臭そうにそのまま掛かる鉄梯子を下っていく。
「まなんとかなるか」
マンホールは閉めず明かり取りにし、拜早は地上から姿を消した。