―ユージェニクス―
(顔色…ね)
確かに顔には酷い隈があるし、血色も悪くて青白い。
拜早は少し自嘲して呟いた。

「……あんたらの仲間を傷付けたのは悪かったよ」

「あ?」

拜早の小さな声に、男は眉を歪ませる。

「あんたらが勘違いしてるから言っとくけど、白髪の奴がそうそう居ると思うなよ」

言って、瞬間握られていた手首を振り払った。

あまりにも素早かったので男は拜早の手首を解放してしまう。
「はッ?!」
驚く相手の一瞬の隙を突き、拜早は床に手を着いて反動で身を翻した。髪を掴んでいた手も思わず放されたが、
「痛ぅッ」
頭皮に若干痛みが残る。
「なんだこのガキ!」
と言っても一度に十数人が襲い掛かってくるわけではない。
拜早はすぐに判断して手持ちのナイフをリーダーの男へと向けた。
男達の動きが止まる。

「…なんのつもりだ?」

口を開いたのはナイフを向けられた男。

「つもりもなにも、このまま上に行かせてくれたらそれでいい…ほんとに急いでんだよ」
少しだけ怒った様に拜早は言う。

「後さ、あんたら白の怪物がどうのって言ってたけど、マジで実際あいつ外界なんか行ってねえから」

誰も、動かない。

「俺がなんで白髪だと思う?」


「………ォマェ」



白の怪物としての狂気は、もう拜早にはない。

ただ淡々と、言葉にしていた。


「ククッ冗談だろ?」
男は笑う。

他の男達も、緊張を解く様に自ら笑い出した。


「…あんた達、俺と同じ歳くらいの男子見なかったか?」

拜早の質問に、リーダーの男が鼻で笑って答える。

「へへ、俺も今そいつの事思い出したよ」
「?」

「何日か前にアンタぐらいの金メッシュのガキが突然ここに来やがった…手は出さなかったがな」

「どうして」

拜早はナイフを向けたまま首を傾げる。

「やばそうだったからだよ」
別の男が添える。

「死んだような目してんのに、何か…関わっちゃなんねぇようなフンイキだったからさ」

「……」


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