―ユージェニクス―
「あー無駄に時間食っちまった…」
思わずそう口に衝いて、拜早は階段を駆け上がる。

相変わらず無機質で白いコンクリートの壁が脇に聳え立っていた。


「てか…俺らが居ない時にあんな部外者とか、ありえねーし…」
どうにも彼らに自分達の城を汚された気がして拜早なりに気分が悪かった。

拜早だってこの場所は三人にとっての大切なものだ。



…けどもしかしたら、それは思い出にする事なのかもしれない。

引き裂かれた仲間は、今は想いも、居場所だってそれぞれ違う。



「………」
暖かみを失った廃ビルの中、拜早は足を止めここに一人きり投げ出された様な気持ちになった。




「……ッ」


でも、どんなに喪失感に溢れていたって仲間は…
そんな簡単に忘れられない。放っておけない。


いなくなったら、嫌だ。



スラムしか知らない。
だから狭くても巨大だったその世界で、生きていく事が全てだった。

それが、茉梨亜に会って、咲眞がやってきて…
友達が出来た。
凄い事だ、二人は自分とうまがあって楽しくて、それからずっと三人一緒だった。





鼻で笑って苦笑する。
「…なんで、こんな昔の事」




自分は研究所にも身を置き、白の怪物になってしまったけど……


茉梨亜の存在と咲眞の顔が揃った時、消えてしまっていたはずの自分が蘇った。


そして…沢山の思いと否定と、何か…上手く表せないけど自分が大切にしたかったものを思い出した。



目が覚めた事に意味があるのなら、それが止まった時間を動かす事だったなら。

今、動けるのは自分しかいない。

手を伸ばせばきっと届く、届かせてやるから、

それまでは…


「なぁ…咲眞…まだ」


…まだ、壊れないでくれ。


< 79 / 361 >

この作品をシェア

pagetop