―ユージェニクス―
パソコンを殴った拳が痛む。
それでもそれをきつく握り締めた。

今目の前に蔓延るコンピューターの群を破壊したところで、状況は変わらないのか……

だが殴り壊したい衝動は留めどなく溢れてくる。

「咲眞…本当にそれでいいのか?!!」

「………」

「いいのかよ!!!なぁ!!!」

互いが互いを睨んでいた。



黒川邸には、

茉梨亜が……


「……居るんだぞ…」

搾り出した様な声だった。


自分達は、研究所に売られたけれど……


もし、自分の記憶があった状況から変わっていなければ…まだ茉梨亜はあの牢獄に残っているのだ。


「そ…だよ……茉梨亜は居るんだよ!幻でも作りものでもない!!本物の茉梨亜が!!」

気付けば咲眞の胸倉を掴んでいた。
止めたい!!この強行を、咲眞を…だから今、怒っている。


「……」


色素が薄い拜早の、今にも血走るのではないかという瞳を見つめ、咲眞はゆっくり唇を開く。


「……酷いよ」


拜早は眉を更に顰めた。


「拜早は茉梨亜を殺そうとしたじゃない。それは誰にも咎められなかったじゃない。なのになんで僕だけ……」
「おまえを人殺しになんかさせたくねーからだよ!!」
掴んでいた咲眞の胸倉を思わず思い切り投げ捨てた。
衝動で咲眞は機械群に倒れ込む。

「あの中には…ま…茉梨亜以外も、居るんだぞ…?!」
息を乱す拜早を咲眞は倒れたまま一瞥する。
「…じゃあ尚更効率がいいじゃない……黒川だって死ぬ」
起き上がる事が面倒だとでも言いたげにのろりと咲眞は拜早を見た。

「……ッ黒川とか蓋尻の事は今俺は言わねぇ!けど関係ねぇ奴も居るだろ?!ただそこで働いてるだけの!!そんな人間も殺すのか?!!」

「黒川の下で働いていたならもう全て罪だよ……それでいいじゃない?」

「………ッ」

何を言っているんだ、と拜早は息を切れぎれに漏らす。


「咲眞…」


しかし、こんな全てを無くしてしまおうとしている友達を、「そうか」と言って同意出来るものか?

それに殺されようとしているのも大切な、大切な友達だ!


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