―ユージェニクス―
「でもこの私の事まで忘れてるなんて…今は?!ちゃーんと思い出したわよね!!!」
「お、思い出したよバッチリ…」
咲眞の答えに半ば納得し、私ホント適応力あるわぁ、などと言いながら棗は勝手に管原の事務椅子に着席した。

「て、てか棗さんいつから居たの?」
「…今よ。あなた達こそ研究所がなんだとかわけわかんない話してたみたいだけど、何の事?」

話の内容は聞かれていなかったようだが、かといってあまり身内に説明するような話でも…ない。

「研究所って本当にこっちと関わってないのかな〜って話だよ」
咲眞が上手く纏めた。

「ふーん、関わってるのにねぇ!」


かるーく棗は言ってのける。



「だって咲眞も拜早君も実験に協力したじゃない。“協力”って形ならスラムの住民にも惜しみないって事らしいし…」

「協力…って」

自分達の立場はそういう事になっているのか。
拜早と咲眞は目を合わせる。


「咲眞はともかく、拜早君は世間的に白の怪物でしょ?だから私としてはどうかと思ったんだけど…担当が弾だし、危ない事はないかなぁって」

いや充分危なかったけど色んな意味で。
そんな内心の言葉を二人は飲み込んだ。


「(事務員に研究の詳細って伝わってねーのかな?)」
「(そうみたいだねー…)」


「…けどまぁ」

棗は二人を見て


「元気そうで良かったわ、二人とも」

大人びた顔で微笑んだ。



咲眞の実姉といっても一緒に住んでいるわけではないし、お互いの事情も特に知っているものでもない。

実際咲眞達とは十歳近く離れた歳なので、棗には棗の生活があり、咲眞も咲眞で居場所を見つけていた。


互いに深入りは無い。しかし…

「家族がいると心強いよねえ」

咲眞が誰に言うわけでもなく呟いた。

「あれ、じゃあ俺達は?」
「拜早は力強いよ?茉梨亜は可愛らしい」

「私の前でも堂々と人を喰った(?)感じなのは相変わらずね…」



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