恋し金魚
私はだまっておくことにした。

今言ったって幸くんを困らせるだけだと思った。



金魚の花火はいなくなったことにしよう。




「あの…すっごいびしょぬれなんだけど、よかったらすぐそこに僕の住んでるアパートがあるから、そこの大家さんのとこに行く?」


「大家さん?」


「うん。優しいおばあさんだよ。」



「行きます…。」


「んじゃ行こっか。」


そういうと幸くんは私の手をひいて歩きだした。







ピンポーン…



「おばちゃーん!いる?」


やがて扉の向こうから誰かが歩いてくる音がした。


「はぁい、どなたさま?」


「僕だよ。幸。」


戸を開けて幸くんの顔を見ると、

「あら、いらっしゃい。」


とにっこり笑った。


「あのね、おばちゃんちょっと連れてきた子いて…」

私は幸くんの後ろから顔を出す。


「あら?初めて見る顔ね。」


よく見るとおばさんは50代くらいの人で笑顔が本当に優しそうだった。


「こ…こんにちは。」


「こんにちは。それにしてもびしょぬれね~!」


「うん。だから乾かしてほしいんだ。僕の部屋に女の子なんて入れられないし。」


「そうねぇ。まぁ入りなさい、風邪ひいちゃうから。」


「ありがとう。」


私はおずおずと靴を脱いで入った。


「はい。これがタオルで着替、着替はおばちゃんのパジャマでいいかしら?」


「は、はいっ。」


テキパキとおばさんは動いてて、しっかりした人だなぁと思った。

「ドライヤーは洗面所にあるからね。」


「ドライヤー?」


ドライヤーって何だろ…

「あら、知らないの?髪を乾かす機械よ。」

「はぁ…。」

髪なんて乾かす必要あるの?


そして私はお風呂場に行った。


おふろって人が入る水のこと…だよね?


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