空の姫と海の王子
「……寒っ」
空を見上げると今にも雪が降りそうな
黒く、重たい雲が空を覆っていた
降ってくるのは雪か雨か
どちらにしても嫌だ
降りだす前に帰らねえと
女の部屋はマンションだった
すぐに来たエレベーターに乗って
ふと、気が付いた
「俺の家ってどこだ……?」
家だけじゃない
家族がいたかもわからない
学校の名前も、場所も
友達の名前も出てこない
エレベーターが一階に着いてドアが開いたが
俺は降りようとはしなかった
いや、降りられなかった
降りたところで
俺の行く場所は無い
あったとしても、わからない
「さて……どうするかな……?」
ドアが閉まりかけたから
俺はエレベーターから降りた
悩んでいても仕方がない
とりあえず、歩きながら考えるか
古賀海斗 18歳
理由は分からないけど
どうやら記憶が無いらしい
冷たい風が髪を撫でた
行く宛も無いまま
俺は冬の町を歩きだした
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