空の姫と海の王子


空と海の扉が開き
全てが元通りになった


そう、¨元通り¨

人間でなくなった春達の存在は
その時に人間界から抹消された

人びとの記憶に中には
一年前に起こった悲劇など
もう残ってはいない

勿論、由紀達の中にも
残っている筈がなかった


奈々はそれを分かっていた
だが、実際にそれを実感すると
泣き出したくなるくらいに、辛い


「……奈々?」

「ッ!ごめんなさい、少しボーッとしてたわ」

「ううん、別にいいんだけど……優に見せてあげて」

「ええ」


奈々は焦げ茶だった瞳を
宝石の様に綺麗な紫色へと変えた

その色に驚いたのか、優は目を見開き
マスターはカップを磨く手を止めた


「……その色は¨重力¨ですか。それほどの能力を持っているのに何故……?」

「優、それは奈々にも分からないんだって」


由紀が優の言葉を遮ったが
優が何を言いたかったのか
奈々には分かっていた


私は……知らないうちに
こうなる事を望んでいたのかもしれない


握りしめた拳もいつもとは違う感覚
だけど、どこか懐かしい感覚

今までの体とは違うという事に
気付くのに時間はかからなかった


まさか、人間になるなんて


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