空の姫と海の王子
目が覚めた時にはもう
神として覚醒した肉体ではなくて
人間の肉体に変わっていた
だけど外見は変わらず
ただ、体の感覚が違うだけ
間違いない
この体は覚醒前の私の体
神になる前の、人間の体
だけど、この体には
私も初めて見る物があった
奈々は唇を噛み締めると
ギュッと左腕を掴んだ
服に隠されているそこには
紋章が焼き付けられていた
人間界にとばされる直前まで
はっきりと見ていた紋章
¨空と海の扉¨にも
これと同じ紋章があったのだ
きっと、この紋章のせいなのだろう
奈々は能力が使えない事に気付いた
小さな物を浮かせる事も出来ない
¨普通の人間¨になっていたのだ
瞳の色は変えられるのに能力はない
だから優は疑問に思っていた
そんな人間は今まで見た事がない
どこか緊迫した雰囲気を崩したのは
カチャリとなった小さな食器の音
温かそうな湯気が
2つのカップから立ち上る
視線をそのまま上げると
優しく微笑むマスターと目があった
「由紀さんはカフェオレ、奈々さんはカプチーノ。冷めないうちにどうぞ」
「……そうだね、ありがとうマスター」
ずっと立っていた由紀と奈々は
カウンター席に座ってカップを手にとる
じんわりと、カップから伝わる熱で
すっかり冷たくなっていた手を暖めた
_