空の姫と海の王子
◇不器用アメジスト
──胸がズキン、と痛んだ
なんで忘れてるのよ
なによその態度
まるで、他人みたいじゃない
自分を見つめる赤い瞳は
いつものような優しい瞳ではなく
敵を睨み付けるような鋭い瞳
奈々は思わず一歩下がったが
ドン、と背中に壁がついた
「お前、さっきから何なんだよ」
「お前だなんて、気安く呼ばないで」
そんな風に呼ばれた事ない
煩いくらいに奈々って呼ぶじゃない
「俺が記憶を無くした理由を知ってるなら、馬鹿みたいな作り話はもういいから。早く本当の事を教えろよ」
¨馬鹿みたいな作り話¨
その現実をみんなで過ごした
そんな事も忘れたのね
きっと今ここにいる理由も
あと二人の仲間のことも
全部、忘れたのね
「私は本当の事しか言ってないわ。信じるか信じないかは勝手にしたら?」
陸の横を通り抜けた
もうこれ以上は無駄
何か次の手を考えないと
「……おい、お前!」
「奈々」
「は?」
振り返らずに言った
「私はお前じゃない、奈々」
「……奈々」
馬鹿みたい
名前を呼ばれただけで
こんなに心臓が煩いなんて
早く、早く
私のこと、思い出しなさいよ
ばか陸
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