空の姫と海の王子
──コーヒーの良い香りが広がる
店内に流れるゆったりとした音楽と
カウンターに並べられたサンドイッチ
淹れたてのエスプレッソを一口飲み
奈々はホッと一息つい……「てる場合じゃないのよ!」
バンッとカウンターを叩いて
奈々が由紀に向かって言うと
優と由紀はクスクスと笑った
「焦っても仕方がないですよ」
「でも、能力者狩りを止めなきゃ二人は危ないんでしょう?こんなにまったりしてていいの?」
「そうだね、こんなまったりしてる場合じゃないかもね」
そう言いながらカフェオレを飲み
サンドイッチを口に入れる由紀と
じっくりと新聞を読みながら
ブラックコーヒーを飲む優
……この二人に危機感という
まともな感情はあるのかしら?
奈々は額を抑え、溜め息をついた
「¨急がば回れ¨ですよ。焦って動いても良い結果は表れません。朝食の時間くらいはリラックスしてもバチは当たりませんよ」
カップを磨きながら微笑むマスターに
奈々は諦めてエスプレッソを口に含んだ
人間界に来てから一週間がたった
何の情報も無いまま
また、一日が過ぎていく
確かに焦り過ぎかもしれないわ
もう少し冷静にならないと
口の中に広がる程よい苦味が
焦る心を静めていく気がした
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