空の姫と海の王子
「──ったく、何で俺がこんなに悩まねえといけねえんだよ」
ブツブツと文句を言いながら
路地を抜けて大通りに出る
居酒屋が並ぶ通りには
朝だからか、人はいない
吹き抜ける冷たい風は
体に刺さるように痛くて
軽装で出てきた事を後悔した
だけど、そのお陰で
熱くなってた頭が冷えた
「……奈々、か」
あの女は何で俺に
突っ掛かってきたんだ
俺は別に何もしてないのに
何もしてないのに……?
ふと、ある考えが浮かんで足を止める
「ま、まさか……!」
小学生が好きな奴に意地悪するみたいに
あの女は俺の事をいきなり殴ったし
最後に見せた悲しげな表情は
俺の態度に傷付いたからだ
「そうだったのか……」
あの女は
俺に
「一目惚れしたのか!!!」
居酒屋の前で膝をついて叫んだ
この馬鹿を止められる人間は
残念ながらここにはいなかった
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