空の姫と海の王子


ギュッと目を瞑った奈々に
葵は更に言葉を続けた


「春は君達を捨てて俺の仲間になった、俺達¨SUN¨のね」


嘘だ、嘘だ


「でもね、君達と同じ様に春はこの戦争を終わらせようとしてるよ………能力者を全員消せばいい、って」


嘘だ、嘘だ、嘘だ

春がそんな事言う筈ない
誰よりも優しい春が

そんな事言う筈ない

嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ

春が私達を捨てるなんて嘘よ

だって私達はこれからも一緒で


これからも、ずっと

一緒なんだよ、って


言ったのは

春だもの



葵には手に取る様に分かる

腕の中で震えるこの女が
どんどん大きくなる闇の中で
必死に耳を塞いでいるのが

精神力にも限界がある

奈々の心が音を立てて
壊れていくまであと、少し


あと少しだったのに


ドン、と胸を押されて
奈々の体から手を離した

奈々の体はそのまま引き寄せられ
陸の腕の中に収まった


「………奈々、よく頑張ったな」


陸の掠れた声が耳に届くと
奈々の体の震えは止まって
そのまま意識を手放した


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